■学芸員誌上座談会

各界でご活躍のOBにお集まり頂き、お仕事やエピソードやらをお伺いする「OB・OG 座談会」シリーズも今号で4回目。今回は全国各地でご活躍されている学芸員の方にスポットを当ててみました。
 何しろ全国津々浦々に拡がる武蔵の輪、その中から御三方にお話を伺いましたが、距離の問題もあり、なかなか一堂には会せない為、今回は誌上座談会の形でお届けします。業界で高い評価を得ている武
蔵の学芸員、そのご健闘ぶりや如何に。

(取材と文:広瀬壮二郎 白鳥優子)

 

 

(問)まずは、学芸員とはどんなお仕事なのかお聞かせ下さい。

(毛塚)
 資料の収集・整理・保管、展示や調査、研究活動等専門性の高い業務だけを担当することもあれば、小規模館だと受付からお茶出しまでカバーするなど、日本の学芸員の業務範囲は多様です。学芸員本来の専門的業務は、展示活動を通してその館の理念や展示テーマを多くの方々に知って頂く仕事と、教育・普及活動に携わる仕事があります。美術品や歴史的な資料の保存業務も、学芸員が担当することが多いのです。

(角川)
 国や県の規模であれば、研究者として皆さん活躍されていると思いますが、市町村レベルの館ですと、学芸担当という一般行政職も多く、企画・運営・事務・予算・管理に至るまで仕事の範囲は多岐に亘ります。
 例えば、敷地内の草刈りの手配から館内の電球交換まで、一見学芸員とは関係なさそうな仕事も、少ない人員で運営する上では必要になって来ます。

(池田)
 専門的な知識が必要とされる一方で幅広い知識や教養、それに一般常識も身につけていないと仕事にはなりません。つまりは武蔵の人文学部での学びをフルに活かせる職業と言っていいのかもしれません。


常設展「戦後強制抑留コーナー」にて・毛塚万里氏

 

(問)学芸員になられたきっかけは?

(池田)
 もともと美術館や博物館を巡るのが好きで、学芸員の仕事に何となく憧れがあったからです。

(毛塚)
 歴史や文化史が好きで、武蔵の受験は学芸員課程と日本文化学科(日文)があったのが決め手でした。歴史も文学も美術も民俗も、と幅広く学べる日文は魅力的でした。実際一年時から複数の専門ゼミで学べて学生生活が充実していたし、在学中に培った学際的な視野は、学芸員として働く場合の即戦力として役立ちました。

(角川)
 嫁ぎ先の地域で募集があって応募したら受かったからです。ラッキーでしたね。もちろん、学芸員になりたくて武蔵を選びましたので、夢がかなったというわけです。

 

(問)学芸員の魅力って何でしょう?

(毛塚)
展示活動や普及活動を通して、多くの方に資料が生まれた当時の史実を知って頂く、そして考えて頂く機会を提供できることだと思います。

(角川)
 自分の専門分野と違う世界の方とも視点によりテーマや研究内容が一致すれば、一緒に仕事ができること、そして新たな世界観に触れることができることかと思います。
 私は社会学科を卒業しましたが、博物館で働くようになってから、研究分野では雪氷、特に赤雪などの雪氷生物、南極などの極地、山岳、品質管理、更にはアマチュア無線や自律型ロボット、人権研修と、何れも素人に毛の生えた程度のものですが、自分自身の世界や可能性が拡がる楽しさと面白さを感じています。スペシャリストにはなれそうにありませんが、ゼネラリストを目指すことは可能だと考えています。

(池田)
 ご指導下さった中村たかを先生が仰る通り、「学芸員は雑芸員」すなわち資料の管理や展示企画は勿論、イベントの企画・運営、グッズの開発、館報・会報の編集など、様々なことを経験できる楽しさがあります。

 

(問)では学芸員としての悩みは?

(角川)
 東近江市では、博物館は生涯学習課の所管で、ホールや公民館(コミュニティーセンター)などと一緒になっているせいもあり、博物館グループ(6館)の政策上の位置づけがあまり明確になっていない悩みを抱えてきました。ここ1〜2年、社会的役割(存在意義)について検討し、博物館側から政策の中で担いたい(担うべき)役割を提案しています。総合発展計画(政策・施策)に明記されなければ予算獲得・人員確保が難しいので、研究を継続し運営を充実していくためにも、行政のしくみについて勉強する必要性を感じています。

(毛塚)
 職場の業務と、自分の研究と、家族の時間とのバランスです。

(池田)
 雑芸員と申し上げた裏返しですが、専門的な研究に時間が割けないという悩みはあります。

 

(問)何かエピソードがあったらお聞かせ下さい。

(角川)
 探検の殿堂の事業全体を見ればまだまだですが、8年目に突入するロボット活動に於いては、7〜8年の経験者である高校生・大学生がサポートスタッフとして成長し、通常の講座のサポートから競技大会などのイベント運営まで主体となって動いてくれるまでになりました。今では館にとって、頼れるパートナーです。
 館の性格にもよりますが、探検の殿堂のように青少年を対象にしている館は、小学校の高学年から中学生くらいになるとスポーツや塾などで忙しくなるため、あまり博物館を利用しなくなる傾向にあります。
 けれど、自律型ロボットに取り組んでいる子どもたちは、自主的に活動し全国レベルの実力を身につけるだけでなく、培ったものを後輩に伝えてくれます。次の指導者となりうる知識・技術・ノウハウを持って後輩のサポートに回ってくれるというのはこちらの館の大きな特徴及び資産であり、大いに自慢できることだと思っています。私の理想になりますが、年齢に関係なく、その人の能力を活かせる場のひとつが博物館であるべきだと思います。

(毛塚)
 勤務先の平和祈念展示資料館は、さきの大戦における兵士、戦後強制抑留者、海外からの引揚者に関する資料を展示しているのですが、世代交代が進み、体験者のご遺族の方がお見えになることが増えています。悲惨な体験であるためか、直接ご本人から戦中・戦後のお話を聞いていないことが多いのです。そのご遺族に故人の足跡などの調査方法をお伝えすると、後日「今迄知らなかった親のことがよくわかりました」と、御礼のお手紙を頂くことがあります。ささやかなお手伝いができたと心温まります。またイベント当日、「楽しみにしていたのに、参加できなくなりとても残念です」と丁重なお電話を頂戴した体験者の方がおられましたので、同僚と相談し、後日関連イベントのご案内を差し上げました。そうしましたら「近日中に必ず伺います」と、再び丁重なお電話を頂戴しました。こんな交流は嬉しい出来事です。


「追求の先に…美を拓くものたち」展の会場にて・角川咲江氏

 

(問)ところで、日本と海外とで何か違いはありますか?

(毛塚)
 学芸員を含む専門職が、専門職として働き続けられる多様な環境や選択肢が、社会の体制として確立しているか否か、あるいはキャリアプラン教育の有無や、キャリア形成モデルの多寡が挙げられます。学芸員も非正規雇用が少なくない専門職です。
 それでも非常勤や嘱託で実務経験を積んで、正規雇用の公募で採用となる卒業生も確実にいて、頼もしく感じます。

 

(問)古いものなどについて、どうお考えですか?

(池田)
 古いものをできるだけ良い環境で保存することは重要ですが、一方で、それを広く活用する必要もあるかと思います。中原中也の直筆原稿や遺品を大切に保存し、次世代に受け渡すことは、館の最も重要な使命ですが、片や、中原中也を広く周知させ、次世代のファンを生み出すことも私達の重要な仕事であると考えています。
 そのためにも、わざわざご来館頂いたお客様には、本物を見て頂きたいと言う思いがありますね。資料の保存と活用を巡るジレンマはこれからも続くと思います。

(角川)
 古い資料だけに限ったことではなく、博物館の様々な事業によって生み出され蓄積されたもの、それは人脈やノウハウ情報を含めてのことですが、博物館が次代に伝える(継承する)価値をもつものは、全て活用できる形で保存される必要があると考えています。

(毛塚)
  歴史的な資料が劣化や災害等で失われてしまうと、史実を後世に伝えることが容易ではなくなります。特に戦中戦後の資料は弱い素材が多く、修復の専門家と相談しながら保存と活用の両立をはかっています。また記憶や体験を後世へ伝える人材の高齢化という現実に、平和祈念展示資料館では直面しています。戦後生まれが8割に近づく中で、戦争体験の労苦を知る機会をどのように提供していくか、そのあり方を模索しています。

 

(問)将来、学芸員を目指す後輩にアドバイスを頂けますか。

(毛塚)
 実務指導も研修旅行もない、学芸員課程“冬の時代”に履修・卒業した世代からすると、今は履修内容が充実して羨ましい限りです。そんな恵まれた環境でも、ぜひ学外の博物館関係学会主催の研究会等にも積極的に参加してほしいですね。
 学会では、現場や海外の最新動向を学べます。参加費無料も多く、顔を覚えてもらうだけでもメリットです。時には、卒業生学芸員に紹介してもらうのもアリでしょう。また各館の求人情報を手がかりに、いま身に付けるべきスキルは何か、自分に何が必要かを常に意識してほしいです。

(池田)
 小規模の大学で、しかものんびりとした学風ですから、社会という大海原に出るのが怖いという人もいるかもしれませんが、武蔵でしっかり勉強すれば、世界に雄飛する実力はちゃんと身に付くはずです。今は色々考え過ぎず、知を養うことに集中すべきだと思います。結果は必ずついて来ますよ。


『文学界』と中原中也―1930年代の文芸復興」展示解説中・池田誠氏

 

(問)最後に、日頃お考えになっておられることをご披露下さい。

(角川)
 予算がなくても、人が数人集まれば何とかなります。例え小さな館でも、外部の人を含めて自分とは違う経験・知識・ノウハウを持っている人が集まってチームを結成すれば、規模の大きな組織では出来ないことが出来るという場合もあります。
 「腐らず諦めず」をモットーにしています。西堀榮三郎の語録に「悩みとは何か?それは決断しないことから生じる」とか「実践こそが一番大事。その中から真実が生まれてくる」というものがあります。
 「失敗したら、またやり直したらええ」という西堀さんのポジティブな考えに励まされながら、今後も、誰と組んだら、どういう方法にしたら楽しく仕事ができるかを考えていきたいです。

(池田)
 日本人の教養について考えると、展示を作る上で、どこまでを常識の範囲として良いかはいつも頭を悩ませるところです。

(毛塚)
 学閥が根強い博物館業界ですが、武蔵の学芸員課程への評価が定着してきたことは、卒業生として鼻が高いです。実習館で見初められて採用となった事例も複数あるそうですし、知人の学芸員から「他校の学生とは全然違う」とお褒めの言葉を頂くことも多々あります。これは担当教員や事務スタッフの方々のご努力により、人間力を向上させる指導と質の高い実務実習の充実に由来すると感じます。まさに、武蔵の建学の三理想のひとつ「自ら調べ自ら考える力ある人物」を育てる学風、そして、そう努力してきた武蔵の学生・卒業生の実績の賜物だと思います。私もその建学の精神を常に忘れることなく、学芸員として精進する毎日です。
 一堂に会してお話を伺えば、もっと発展した話題に拡がったことと思いますが、それぞれのお話の中から、学芸員の方のご活躍ぶりの一端を覗くことができたのではないでしょうか。

 

  新宿高層ビル街の一角、住友ビルの48階にある平和祈念展示資料館(総務省委託)にお勤めの毛塚さんには、直接お訪ねし、展示物の解説を頂くとともに、武蔵大学学芸員課程について、その歴史と展望をお伺いすることができました。母校武蔵大学の非常勤講師として約8年間お勤めになったご経験から、学芸員課程の今後の発展に大きな期待を寄せるコメントを頂戴しましたので、以下ご紹介致します。

 

毛塚さんとの一問一答
<武蔵の学芸員課程の特色は?>

 カリキュラムが充実していること、定員制による先生方の肌理細かなご指導に加え、附属博物館未設置や、博物館学専任教員不在のハンディをカバーする事務スタッフの献身的なサポートの存在は見逃せません。
  特筆すべきは実務実習の充実です。模擬展示実習を通じ、展示構成、ストーリー性、見せ方などを学べるのは他校にない特色です。大学院卒が多い中、学部卒でも即戦力となる人物を輩出している所以です。
 また(公財)練馬区文化振興協会と連携した課程プログラムの実施は、まさに官学連携の好事例と言えるでしょう。

 

<業界での評判は?>

 博物館・資料館に勤める学芸員内で「武蔵ブランド」が確立しています。学芸員としての専門性とともに、社会人としての人間力の高さが評価されているようです。

 

<学芸員課程の歴史を簡単に教えて下さい>

 1980 年頃が創設期で、当初から定員30名を超える応募があったようです。最初の事務室は学部事務室の一角。学芸員としての就職は難しかった時代ですが、向学心に燃える学生が多かったと聞いています。当時は宿泊を伴う研修旅行が実施されていました。
  1985年頃は学芸員課程がなくなる、と囁かれた時代です。私の履修はこの頃で、研修旅行もなく、武蔵固有のポリシーが未確立の時代でした。学芸員の就職者が増え始め、図書館3階の日文GSルームをハブとして、卒業生と履習生の人的ネットワークが育ち始めた頃です。

 1990年代は課程と卒業生ネットワーク構築という武蔵らしさが整う時期です。施設見学や4年次の実習先は学生自らが開拓、創刊された課程報告書も、復活した研修旅行も、学生主体で準備を進めました。課程単独の事務室設置や、卒業生学芸員による講義や実習指導の担当開始もこの頃です。
 2000年代は専用の実習室の設置と模擬展示実習(現模擬展覧会)の創設で、実務実習が拡充します。この頃から日文以外の履修生が増え始めました。私が授業を担当した時期でもあります。

 2010年以降、履修科目が増加、実習室(現在は8号館4階)と教材の拡充で学生の自主練習も増え、実習内容も拡充します。練馬区との連携イベントも開始。
 オープンキャンパスへの参加や練馬区連携文化芸術資産活用事業の手伝い、一般公開での展示体験の実施など、他校にはない充実カリキュラムが実現中です。

 

<大学に期待することは?>

 卒業生学芸員の高い評価の獲得には、卒業生・履修生・教員を結ぶハブの役割を担う「学芸員課程」の存在に他なりません。建学精神のもと、履修生の主体的な学習と、座学よりも現場優先で学ぶ姿勢は継続してほしいです。知識や技能の充実方策のもと、2009年の博物館法施行規則の改正で必修科目が増えました。歴史的な資源を、地域や組織の活動に役立てる方向が国際的な傾向であり、その業務を学芸員が担当します。武蔵には由緒あるアーカイブズ資料があります。ナレッジマネジメントの視点に立てば、この資料を、登録博物館レベルの施設を整えて次世代へ確実に継承する。

 展示や保存は課程や卒業生学芸員等のノウハウを活かし、ナレッジ資源として組織の活性化に役立てる。他校との差別化、武蔵DNAの継承、地域や関係業界との交流や広報等に有効であり、他の広がりも期待できる。国が提唱する課程の実習での活用、学内資源の有効活用の一例にもなります。引き続き優秀な後輩達が社会に旅立てるよう、現体制の維持、更には強化を図って頂けたらと思います。


2013 年10月12日実施 博物館実習2の見学実習
戸田市立郷土博物館・山アあさぎ学芸員 (52回人文)による講義