“私を育てた武蔵大学のゼミナール”

  船木 恵子 (28経済・櫻井ゼミ)

  私は1976年に武蔵大学に入学したのですが、当時の大学は現在のようなすばらしい設備もなく、建物も3号館までしかありませんでした。夜になるとうっそうとした武蔵野林が風に揺れて、真っ暗な中に根津研究所の電球の明かりが木々の間にゆらゆらと光り、ぞっとしたことが何度かありました。
  学食はまだトタン屋根風の平屋で、お世辞にもきれいとはいえなかったけれど、古いどっしりとした講堂や、古い建物が厚い緑の背景と融和して、ゆっくり、じっくり物を考える空間を私に与えてくれたことを思い出します。
  後に私は東北大学大学院に進み、青葉山の大自然の中で研究三昧の日々を過ごすのですが、木立の中で本を読み始めると、その木の香りに決まって武蔵大学を懐かしく思い出しました。
  最初は経済学になじめなかった私ですが、教養ゼミでは、1号館の小さなゼミ室で佐藤進先生がいつもニコニコしながら、黒板を背にして、椅子にゆったり座り『諸国民の富』を教えてくださったのを思い出します。高校を卒業したばかりでアダム・スミスの難解な文章を読むのは、実に読み応えがありましたが、なぜか新鮮で面白く感じたものでした。このゼミで私は、大学院でさんざんお付き合いするアダム・スミスとはじめて出会ったのでした。
 専門ゼミでは、櫻井毅先生に、英語のテキストを使った西洋経済史を習いました。ひたすら辞書をひきながら英語を訳して読むのは大変でしたが、少しずつ訳すスピードが速くなり、私は勉強する忍耐力をこのゼミで学びました。櫻井ゼミは、勉強も沢山したのですが、遊びに行きたいというゼミ生のわがままを聞いて、櫻井先生もご一緒に、森林公園まで勉強の合間のサイクリングにお付き合いいただいたり、社会人の心得を学ぶためにゼミの卒業生を呼んでくださったりして人間同士のコミュニケーションをものすごく大切に考えてくださったことは忘れることができません。私たちゼミ生は、授業だけでなく、櫻井先生との何気ない会話の中に多くのものを学びとり、人間として大きく成長したのだと今になって思います。
  大学を卒業してから17年も経ってから私は大学院に入り、博士号を取得しました。学問へのこだわり、じっくり考えること、咀嚼するように本を読み理解していくことは、武蔵のゼミナール教育から得たものだったと信じています。そしてそれは教授と学生のコミュニケーションがあるからこそ得られたものだったのではないかと思います。
  「ゼミの武蔵」。今後もこの伝統が末永く続くことを卒業生として祈っています。


船木恵子さんは、平成15年6月14日(土)慶應義塾大学三 田校舎で開催された研究会で「J.S.ミルにおける科学と宗教」のテーマで報告、発表 を行いました。