モットーは“どんな仕事でもプロになれ"

 広大な北海道で、武蔵大学の同窓生が活躍している。塩カズノコ生産で国内トップシェアを誇り、近年はサケの皮を原料にしたコラーゲンで世界を視野にビジネスをする、井原水産(本社留萌市)の井原慶児社長(23回経済)に、酒井花(44回社会:十勝毎日新聞社・社会部記者、本社帯広市)がインタビューをした。


―酒井 井原社長の大学時代を教えてください。

井原慶児―井原 渋谷に買ってもらったマンションから、「ベンツSL350」のオープンカーでキャンパス通い。1ヵ月の生活費が初任給より高かった。渡辺パイプ社長の渡辺元さん(経済)とは同期で、2人で「ぶっ飛んだ学生」でしたね(笑)。武蔵大学は母の友人の薦めで入学しました。本当は浪人を決めていたけれど、1ヵ月試しに通ってみたら、そのまま卒業してしまった。3年までに卒業単位を全部取得し、スキーやゴルフ、彼女(妻・かほる)とのデートで忙しかったです。

―酒井 なんだか素朴な武蔵大生と、かけ離れた生活ですね。大学の印象はどうでしたか。

―井原 先生も生徒も非常に真面目な学校だと思います。私は内海庫一郎先生(経済統計学)のゼミに所属していました。当時、先生の研究室の外には論文集が山積みにあり、それを自宅に持ち帰り熱心に読んだものです。今でも自宅にあるはずです。
 大学では経済とは何か、その基本を学ぶ機会となりました。もはやマルクス経済学は古い概念かもしれませんが、経営者として適正に人を評価し、よりよい生活を実現していく会社を目指すという理念は、大学で学んだ影響が大きいです。

◆水産加工廃棄物を利用
―酒井 だれもが一度は目にしたことのある「山児(やまに)」印の塩カズノコはあまりにも有名です。最近は、サケの皮を原料にしたコラーゲンの開発に力を入れ、化粧品や健康食品だけではなく、最先端のバイオ技術「再生医療分野」にも進出されようとしています。経営革新のヒントはどこにあるのでしょうか。

―井原 1954年の創業で、水産についてはプロの多い会社ですから、自然と「私にできることは何だろう」と考えるわけです。英語を早くから身につけていたので海外での事業も先頭に立って行うことができました。コラーゲンとの出会いも駐在先のカナダ。1988年、世界初の英国のBSE(牛海綿状脳症、狂牛病)は、日本ではまったく報道されませんでしたが、牛に対する不安が現地で広がるのをみて、これからは牛や豚ではなく海洋性のコラーゲンに切り替わっていくだろうと、肌で実感していました。

―酒井 そこで本来は水産加工廃棄物として捨てていたサケの皮を原料に、開発に踏み切ったのですね。海洋性コラーゲンの特徴を教えてください。

―井原 牛や豚と異なりアレルギー性が少なく、人間に非常になじみやすい性質を持っています。当社のコラーゲン化粧品や健康食品の原料として、数多くの製品に使われています。2002年以降は、再生医療向け分野で札幌医大、北海道大学と提携して研究にあたり、コラーゲンを利用した細胞培養用のゲルを開発しました。患者の皮膚や骨の細胞を培養し移植する研究試薬として販売を検討しています。注目度も高く、非常に将来性のある事業です。今後、ドイツやアメリカの企業にトップセールスを仕掛けていこうと準備しています。

―酒井 最後に、同窓生や現役の学生にメッセージをお願いします。

―井原 「どんな仕事でもプロになれ」がモットーです。仕事に専門知識を持ち、極めていけば、面白さがみえてくるはずです。若い人の多くは、全力を注ぐ前からあきらめたり、やる気をなくしているように思います。雇用する経営者も、仕事の楽しさを伝える工夫が必要かも知れません。

 『井原水産企業概要』
  ●1954年創業。塩カズノコ生産で全国シェア20%を占める。
  ●2002年に小樽市銭函にコラーゲン製造工場を新設。
   本 社:留萌市船場町
   支 社:札幌支社
   工 場:ほしみ工場、銭函工場、沼田工場
   営業所:札幌営業所、東京営業所
   支 店:バンクーバー支店 (東京と米国LAで寿司店も経営)
  ●資本金:2億90万円
   売上高:78億円(2003年3月期単独)
   経常利益:4,384万円(同)



 『取材を終えて』    酒井 花 (44回社会)

 2年前に新設された札幌支社は、白を基調に美術館のようなたたずまい。思わず「ここで本当にカズノコを製造しているのかしら?」と疑いたくなるような、すてきな社屋でした。「整理・整頓・清潔」を徹底した工場ラインで、まるで映画のワンシーンのように黄金色のカズノコが箱詰めされていました。2階は産学連携で取り組んでいる、海洋性コラーゲンの研究施設。井原社長にいただいた、泡立ちのよいマリンコラーゲン入り石鹸は私の愛用となりました。

酒井花  驚いたのは、社屋に素晴らしい託児所が併設されていたこと。同支社・ほしみ工場には130人の女性従業員が勤務しており、働きながら子供を育てることが可能なのです。「女性の方が働き者で、優秀ですよ」そんな社交辞令(?)に励まされ、「我が社の社内環境も改善を求めなくては」と大いに奮起しました。

 現在、多忙な社長が落ち着けるという趣味は「ワイン」。師匠はなんと、女優の川島なお美さんというからびっくりです。自宅には200本以上収納できるワインセラーがあり、フランス産ワインの輸入販売会社も立ち上げました。2年前には日本経済新聞「交遊抄」に『ワインの虜』というタイトルでエッセーも寄せています。

 好きなものは、仕事も趣味もとことん追求する。そんな姿勢に、新聞記者7年目の私も大いに刺激を受けたのでありました。