武蔵学芸ネットワーク 第5回例会 2023

開催日時2023年2月11日(土)13:30~16:00
参加人数オンライン開催/15名(内学生1名)

「川崎市市民ミュージアム 被災と現状―収蔵品レスキューおよび現在までの博物館活動―」
講師:川崎市市民ミュージアム 教育普及部門学芸員
杉浦央子氏(2007年武蔵大学人文学部比較文化学科卒業/2009年 同大学院人文科学研究科欧米文化専攻修了)

 当会は同窓会職域部会の一つで、武蔵大学卒業生有志ボランティアを中心として、年に一度のペースで例会を開催しています。

 第5回となった今回も、昨年に引き続き、新型コロナウイルス感染症対策として、Zoomを利用したオンライン開催で実施しました。

 2019年10月の台風19号で甚大な被害を被った川崎市市民ミュージアムの被災状況と収蔵品の運び出し作業、そして現在も続けられている収蔵品の修復活動についてお話しいただきました。
 講師の杉浦さんは、同館の教育普及担当の学芸員ですが、被災したことが明らかとなった後の収蔵品の運び出し作業にも携わっています。地下にある収蔵庫の浸水状況、停電の中での大量の収蔵品の運び出しと記録付け作業の説明は、写真や動画を交え、とてもインパクトの大きいものでした。当日に被害を目の当たりにした職員の方々は私たち以上に心を痛まれたのではと察せられます。
 収蔵品が被害を受けたことにより学芸活動はオンライン上で続けられていますが、実物に触れる機会が失われてしまいました。未来を担う若い世代には収蔵品をリアルに感じてほしいと、持ち出し可能な資料を小学校に運び、「出張授業」として児童に鑑賞してもらうなどの活動も実施されています。今の教育現場では授業にタブレットが導入されるようになりましたので、「実物がここにある」と思ってもらう取り組みがますます重要になってきたと感じました。
 しかし、浸水被害を受けたことをきっかけに、館の立地や建物に関する批判や意見が出るなど、収蔵品のレスキュー活動とは別の点も注目されることになりました。ここ数年、日本各地で台風や地震災害が急増していますが、一世代前に作られた文化施設をどう守っていくのか、またその施設を利用したことがない人たちにどう周知し、理解を得ていくかという課題もあります。ただ、被災直後から多くの団体がレスキュー活動に駆け付け、今でも修復作業は続けられています。そのネットワークの広さ・強さも非常に頼もしく思いました。
 また、収蔵品の作家に被災した作品を見せたところ、そのことがきっかけに次の展覧会の企画が持ち上がったという話もあり、作家の「変化したことを前向きにとらえる」という姿勢が、古い文化財の保存の重要性を繰り返し聞いてきた私には、新鮮に感じられました。
 今回の内容で最も印象深かったのは、「ミュージアムは未来のかけらである」ということです。ミュージアムは、「モノ」とそれに関連する「ストーリー」を人々に伝えることで、私たちが生きていくこれからの世界(未来)を作るきっかけになります。収蔵品は被災して変化してしまいましたが、本質は変わらない。そこで、修復作業も公開することにより、新たに加わったストーリーも伝え続けることになります。被災した収蔵品のレスキューの話に始まり、最後は学芸員の役割についても深く考えされられる例会となりました。

(報告者:木下美緒 57回日本・東アジア比較文化)

※平成30年12月以前の開催報告は、旧サイトでご確認下さい。