開催報告
-
第64回土曜講座
開催日時 | 2023年7月1日(土)14:00~16:00 |
---|
【第一部】14:10~15:00
生活と創造・地方と東京 ~私が無意識に握っていたもの~
講師 : 守安 久二子(32回日文) 劇作家
「流れ弾には当たることにしている」というユニークな信条を冒頭に語り始めた守安講師でした。東京生まれ東京育ちで大学同窓のご主人と結婚、東京での生活後、ご主人の実家の岡山市へ移り住む。その後、ご主人は東京へ単身赴任、ご子息、義母様と岡山で暮らしておられます。7年ほど前にご子息が持ち帰ったチラシを見てNPO主催の戯曲講座を受けて戯曲作家の道へ。これらも流れ弾なのでしょうか。
戯曲を書き始めて3年、初めての長編「草の家」で愛媛県東温市のアートヴィレッジTOON戯曲賞2018で大賞を受賞。
講義では「草の家」は地方に残る大家族の本家と都会へ出て行ったその家族の交わりから地方から亡くなっていくものや変化していくものを東京育ちの自分だから描くことが出来、作品となったというお話を伺いました。
また、「草の家」の舞台であるはかりやの商売、大家族、本家などが岡山のくらしを元に書かれたこと、愛媛東温市と東京下北沢の大賞演劇公演舞台で使用した小道具などは岡山で使っていたものを使用されたことなどのエピソードも交えたお話がありました。
さらに、2021年度愛知県芸術劇場AAF戯曲賞大賞を受賞した「鮭なら死んでるひよこたち」の戯曲はご自分の年少期に学校前にやって来る素性の知れない色付きひよこやマジック用品を売る的屋の記憶をヒントにした戯曲で、人生の負のスパイラルに巻き込まれないよう、巻き込まれかけたら自分の人生を巻き戻す様を描いたものとの裏話も伺うことが出来ました。
また、大賞の最終審査会は7時間に及び、作者も緊張した中で立ち会い質問を受けるといった様子やさらにその面前で投票が行われるなど興味深い話が続きました。
講義後には質疑応答の時間が取られ、活発な質問に対して丁寧に回答をいただきました。
「鮭なら死んでるひよこたち」という特徴的な作品名の由来や意味するものもご披歴いただきました。
戯曲を書き始められてまだ7年、今後も新たな作品を発表されていくことに期待が膨らむ講義となりました。
【第二部】 15:10~16:00
台頭する女性指揮者たち ~当世音楽事情異聞~
講師 : 光野 正幸 武蔵大学 名誉教授
昨年3月、定年退職された光野名誉教授から女性指揮者にフォーカスした音楽事情のお話を伺いました。
2023年のアカデミー賞主要6部門にノミネートされた「TAR/ター」に描かれている主人公はフィクションであるというお話からスタート。この映画では、米国5大オーケストラ(ニューヨーク、ボストン、シカゴ、フィラデルフィア、クリーブランド)で指揮者を務めた後、ベルリンフィルの首席指揮者として成功した女性という人物設定になっていますが、これまで国際的な楽団で指揮者として名を馳せた女性はいないとのこと。現在、オーケストラのソリストとして活躍する女性は珍しくありませんが、これも近年になってのことであり、この業界の女性台頭はなかなか進んでいないとのことです。
また、 実在した女性指揮者アントニア・ブリコを描いた映画「レディ・マエストロ」においてもベルリンフィルやニューヨークフィルを指揮した経歴はあるものの、オーケストラの音楽監督や常任指揮者ではなく、それらを初めて指揮した女性として描かれているそうです。
現在、シモーネ・ヤング(オーストラリア)、マリン・オールソップ(米国)、スザンヌ・マルッキ(フィンランド)などが女性の音楽監督や首席指揮者として世界で活躍しており、 日本においても、松尾葉子(名古屋出身)、西本智実(大阪出身)、三ツ橋敬子(東京出身)などの女性指揮者が登場しています。また、沖澤のどか(青森出身)は複数の国際音楽コンクールで優勝し、昨年から京都市交響楽団の常任指揮者となっていることなど、現在の音楽業界での女性指揮者の活躍をご紹介いただきました。
また、バイロイト音楽祭で指揮をしたオクサーナ・リーニフ(ウクライナ)はボローニャ市立劇場の音楽監督に就任し、昨年11月にボローニャ歌劇場日本公演で来日して「トスカ」を指揮しました。観賞に行かれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
世界や日本において才能あふれる女性指揮者の台頭をご紹介いただく一方、フィクション映画の世界ではなく、女性指揮者の大活躍が現実となることを期待する思いが、光野名誉教授の講義から聞こえてきました。
(報告者:関谷 文隆(30回経営))
※平成30年12月以前の開催報告は、旧サイトでご確認下さい。