武蔵学芸ネットワーク第8回例会2026

開催日時2026年2月7日(土)14:00~16:00
参加人数オンライン開催/20名及び幹事4名(内、録画視聴者5名)

講師
秦英水子さん(旧姓鍋田)
1995年武蔵大学人文学部日本文化学科卒(43回)
公益財団法人キープ協会 ポール・ラッシュ記念館館長(学芸員)

 山梨県北杜市にあるポール・ラッシュ記念館は、清里高原の広大な土地にあります。記念館は、清泉寮という宿泊施設を運営する公益財団法人キープ協会の創設者であるポール・ラッシュ博士(1897-1979)の功績を顕彰し、関係資料を保存するために1996年に開館しました。企業(私立)のミュージアム・アーカイブズの役割を担う登録博物館です。展示では、清里開拓の父・ポール・ラッシュ博士の生涯、理念及びその実績を紹介しています。保存対象とする歴史資料は、博士個人および法人の活動に関する記録資料、旧住居や遺品など大小様々です。2013年度から学芸員として働く秦さんの報告は、短時間で沢山の内容でした。日常的な活動に始まり、来館者は勿論のこと、職員や外部の人々へポール・ラッシュ博士やキープ協会の活動について理解を広める催事や広報業務。さらには受託施設を含む清里地域全体の歴史的な史跡保存の必要性など課題にも触れました。
 同館では、ポール・ラッシュ博士の4つの理念(食料・保健・信仰・希望)に基づいた幅広い活動を行っています。その1つが組織内向け教育・勉強会です。さらに館長の役割として、市や他地域の資料館・関係団体と連携し、協力体制を維持・強化することにも取り組んでいます。現在の学芸業務の中心はアーカイブズ作業です。(1)収集資料を本格的に活用できるようにする次世代のための準備を行う、(2)次世代になる人が出現するような(人を育てる)活動をする、(3)後任職員を含む次世代への業務引き継ぎや知見の伝達を意識した業務運営を推進する、など明確なポリシーの元で実行しています。例えば、ラッシュ博士に関する資料のうち、約80%を占める英語(癖のある筆記体)の書簡を、5か年計画でデジタル化を終えるプロジェクトを進めています。
 また秦さんは、国内外のオークションサイトを継続的にパトロールし、必要な資料を落札し、コレクションへ追加したり、米国にある関係するアーカイブ施設とのやりとりも行っているそうです。そのため同館で働く場合、英語力は必須という学芸員スキルについても話が及びました。
 大学院で取り組んだ研究についての著作(鍋田英水子「中世後期「北野社」神社組織における「一社」」『変貌する北野天満宮―中世後期の神仏の世界―』瀬田勝哉編、平凡社、2015)もある秦さんが、院修了後、日々変化し続けるデジタル環境下で漢字辞書や編集業務を長く体験されてきた経歴も、即戦力として学芸業務に活き、館長という管理職としても力を発揮する礎になっていると感じました。大学に入りゼミが面白く、卒業後を含め様々な方からリファレンス資料の見方を学ぶことができ、ご自身の財産になったとも話されていました。興味ある業界と関わり続ける働き方の一例にもなっていると思います。最後に、企業ミュージアムの使命として、職員教育の重要性、創設者の理念を堅持し、組織のアイデンティティを確立する必要性を強調されました。
 ポール・ラッシュ博士の銅像の眼前に美しい富士山が広がる現地を、ぜひ訪問していただきたいと思います。
(文責:幹事一同)

※平成30年12月以前の開催報告は、旧サイトでご確認下さい。